レイモンド・ブリッグズ「風が吹くとき」

風が吹くとき

風が吹くとき

画像があるのでこっちを表示させたけど、私が読んだのは小林忠夫訳の篠崎書林刊行のもの。
元々アニメの方を観たことがあったのだけど、最初に見たのがあまりに小さい頃で、それが原爆の話であることもしっかりと認識していたか怪しい。ただ、漠然と怖かった。
原作は初めて読んだ。アニメと同じく、素朴で愛らしい絵柄。だから怖い。夫婦の顔が最初と最後で全く違う。青褪めて隈のついた顔で歌いながら血を吐くジムはもうシュールなんてもんじゃない。鳥肌が立った。無知で、愚かで、善良な夫婦は、放射能で衰弱しながらも政府の助けを信じている。それはもう純粋に信じている。誰のせいでこんなことになったのだろう、なんて考えない。
漫画のような細かにコマ割りされた場面を中心としながら、時折混ざる見開きを全部使った戦争のシーン。数は少ないのだけど、その場面が不気味さを煽る。遠くにあったはずの戦争。それが音もなく忍び寄ってくる恐ろしさ。
どこにも反戦を煽る大々的なメッセージはない。夫婦はうんざりしてはいるけれど、決して戦争の正当性など考えない。間違っているなんて思いもしない。過去の戦士たちを讃える場面さえある。最後にジムが唱えるのは「死の谷に600の兵士は進む」という詩。なんという皮肉。
戦争そのものと、それ以上に無関心であること、無知の愚かさと悲しさを思う本。