「恋する男たち」

篠田節子小池真理子唯川恵は男視点で描いているのにというべきか、からというべきかわからないけど、男のずるさがはっきり伝わる。男の言い分を聞けば聞くほど言い訳に聞こえるような感じ。最初の2篇は相手役の女性もどことなく似通っていて、「男の人が好きそうな女性像」ままで、それが逆に厭味だと思う。篠田節子「密会」は特に、怖さを感じる。小池真理子「彼方へ」は出だしはきちんと主人公の現状を描いているのに、最後に今の彼がどうなったかはわからない。そういうものなんだろうけど、気になるというか尻すぼみに感じてしまったというか。唯川恵「終の季節」は若干ずるいと感じてしまった。理想的過ぎないかな、最後。
松尾由美「マンホールより愛をこめて」は唯一の女性視点。ここでの男もずるいのだけど、最初の3篇に比べるとそれほど感じないのは、彼が所帯持ちでなかったこと・若かったことによる。でも主人公の女性が「彼に恋をしていたのだ」って件で若干興醒めしてしまった。
湯本香樹実「マジック・フルート」がこの本の目当てでした。回想形式で、恋をした当人の視点。でも少年時代の恋ということで、前4本よりきれいな恋の話になっている。きめ細かに描かれた描写が瑞々しくて楽しい。
森まゆみ「谷中おぼろ町」はちょっと難しかったのだけど(地名とか、昔の言葉とか。自分の無知のせいなのだけど)こういう作家なんだろうか。時系列がゆっくり戦争に向かっていて、最後は少し悲しい。