瀬尾まいこ「温室デイズ」

温室デイズ

温室デイズ

いじめの話なのに、驚くほど不安感がない。それはたぶんこの主人公みちるのまっすぐさによるものなのだと思います。どれだけ酷い目に遭いながらも、みちるは学校に行くということを当たり前のこととして捉えている。自分が悪いわけではないのに当たり前のことができないなんておかしい、だから通う。そういうのは今まであまり読んだことがなかったので新鮮な気持ちで読みました。
とても好きだなと思ったのは、みちると父親の関係。昔かたぎで古くさい父親を、みちるはとても信頼しているのがわかります。その歳特有の親への疎ましさも抱えつつ、彼女は父親の思いをきちんと受け止めています。中学生くらいの子が主人公のお話ではこれもやっぱり珍しいのではないかと思います。あくまで父親として、友達親子ではないのもいいですね。
登場人物それぞれの思いがぶつかる花壇のシーンはかなり息を呑みました。花壇の無事を願うみちる、そのみちるの思いを受けてナイフを持った吉川、行き場のない怒りと不安を抱える瞬。みちるのために瞬を変えようとした優子。それぞれにいろいろな思いや事情を抱えていても、目に見えるのは行動の部分だけなので、ひとがわかりあうことや、ましてひとを変えることは難しいのだと思い知らされる場面でした。それでもなにかが、という終わりは明るくてよかったと思います。