宮川健郎編「児童文学―新しい潮流」

児童文学―新しい潮流

児童文学―新しい潮流

思い返すと子ども時代に、きっちりと児童文学と銘打たれるものを呼んだ記憶がない。辛うじて記憶にあるのは「うしろの正面だあれ」(蛯名香葉子著)や「お星さまのレール」(小林千登勢著)のような戦争児童文学。有名な「ズッコケ三人組」や「はれときどきぶた」など全く触れたこともない。
だから読んでいくとかえって新鮮だったりするのだが、案外暗い話が多くて驚いた。子供向けの話は明るいというのがどうも思い込みにあるのだが、考えてみると実際自分の子供時代、惹かれるのはむしろ暗い(重いという意味ではなく、部屋の隅っこや押入れ、あるいは路地裏のような、普段は見落としてしまう場所に似た暗さ)話だった。そして中でも、死というのは否応なく惹きつけられた。
印象深かったのは那須正幹「六年目のクラス会」から岩瀬成子「ダイエットクラブ」までの4本。
中村李衣「たまごやきとウインナーと」は子ども二人だけであることや、兄が幼い妹を面倒見ようとする姿に、映画「誰も知らない」を思い出して、私はネグレクトの話と受け取った。最後に出てくる母親は確かに子供に愛情を向けているとは思う。だがそこにどこか責任感が欠如した感じがあるのだ。ただ解説によればこの本に掲載されているの後に、翌日戻ってきた母親がお弁当を作る場面があったそうだが、それがあるのとないのでかなり印象が違う。ここで母親は「またやりなおしだわ。」と呟く。けれど、更に思う。この短い期間でも子どもたちは一度捨てられているのだ。それは厳然たる事実として存在するために、読後感はいいとは言えない。(妹そのこの保育園の先生の言及を兄が懸命に逃れたのは、この事実からの逃避とも受け取れるかもしれない)