重松清「きよしこ」

きよしこ (新潮文庫)

きよしこ (新潮文庫)

吃音で、思っていることを思ったとおりに口にすることができない主人公。私は吃音ではないけれど、彼の感じていた歯痒さや悔しさ、悲しさと同じような気持ちを味わってきた。一側性難聴で右の耳は全くといっていいほど聞こえない。上手く伝えられない主人公に対し、私は上手く受け取ることができない。言葉が不意に姿を消してしまう感覚はきっと似ている。勝手にそう感じた。図々しいけれど、私はこれを「自分の」物語として受け取った。
吃音を抱えた少年の、少年から大人へと近づく日々を淡々と描いた小説。ドラマチックではないのに泣かせる。大仰じゃないから、一層泣ける。そこには決して派手に作り込んだわけではない、けれど生々しい日々があるからだ。
あさのあつこの解説は個人的には邪魔でした。余韻を壊される感じがしたので、1ページほど読んでやめた。