川端裕人「てのひらの中の宇宙」

てのひらの中の宇宙

てのひらの中の宇宙

タイトルと装丁に惹かれて読んでみたのだけど、思っていたものと違ったせいなのか、最後までのめり込めずに終わってしまった。宇宙というもの、あるいは宇宙的な広がりを、もっと感覚として読ませて欲しかった。何気ない風景や何気ない暮らし、会話の中にふと広がる宇宙という感じのもの。登場人物がコレ、と断定的に指し示すのではなく、読者がふと、「あ、これってすごく宇宙っぽい」って思うようなものが読みたかった。この物語はあまりにも直截的に宇宙というものを示してしまうので、かえって広がりがない。だったら図鑑でいいよって思ってしまう。同様に幸せを、はっきりと「いい」とか書いてしまうのは興醒めする。読者に「ああ、今のこの場面って幸せって感じだなあ」と思わせて欲しい。総じて物語が読者の手に渡っていない感じがした。もっと読み手の感性に委ねる部分が欲しかった。それと主人公の考え方というか、それの描き方がどうも比較論みたいになっているのも引っかかってしまう。アメリカの家庭云々の件のようなものはわざわざ入れなくとも、主人公が子どもと眠るその描写自体が幸せそうであれば読者はきちんと汲んでくれるはずなのに。ウシロも漫画的によくあるキャラクターで、わざわざわかりきった解説を入れてくれるが不要。全体的に説明っぽくて好きになれなかった。