角田光代「トリップ」

トリップ (光文社文庫)

トリップ (光文社文庫)

10篇の短編に登場する人物たちは、全員が、幸せという中心から少しずつずれたところにいる。そして自分が絶対にその中心には行けないことを知っている。激しい絶望感ではなく、緩やかな諦めの空気が全体を覆っている。
眼差しは率直で痛い。あまり見たくない部分を容赦なく刺す。でもだからといって辛辣な、あるいは辛辣さを誇っているのではない。否定的ではない。その諦めた現実を、肯定している。
短編集が読みたくって、前々から気になってたこの作家のこの本に手を出してみたけど、初めて読む本としてはやや選択ミスだったのかも?この作家が自分にとってどうなのか結論を出すにはこれだけではやや尚早かもしれない。
円を描くように実は繋がった10篇。その巧みさに驚きつつ、しかしやはり抜け出せない重さを感じて溜息が出る。その繋がった円の中心こそが、そのたどり着けない幸せなのかもしれない。幸せが本当にあるのかはわからないけれど。