重松清「卒業」

卒業 (新潮文庫)

卒業 (新潮文庫)

父親の物語はいい。けれどどうしても、母親・妻が物足りない気がしてしまう。それはこの作家については結構前から感じていたことなのだけど、母親ってそんなに無償で優しいだけでもあたたかいだけでもないし、まるいばっかりじゃない。怒るし叱るし、時々結構理不尽なことを言ってきたりすることだってある。子どもの目から見ていいとか悪いとかじゃなくって、実際そういう面だってあるはずなのに、それが見えない。作者自身もそれは感じているのか、最後に収録された『追伸』のハルさんは少し現実味があるけれど、こちらも血縁としての母親ではないので、義理の息子との確執がメインになっているのでいまいち。何より日記を残した母親のインパクトが強すぎる。
『まゆみのマーチ』の主人公の、「次こそは優しく接しよう」として、結局できないのが、すごくわかる。身近なひとに優しくするのって難しい。家族だと、多少の傍若無人が許されると思ってしまうからなおさら。