リリー・フランキー「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」

東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~

東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~

自伝的であろうと、小説というものである以上構成を考え、きちんと推敲して欲しい。思い出したエピソードをつらつら書き連ねるだけなのでどこが重要なのかわからないし、散漫で、流れに一貫性がない。思いついた、ちょっと変わった表現を、作者自身が「これ面白くね?」と思って書いているのがひしひしと伝わってくるのもいやだ。何より作者がどれだけオカンが好きなのかはわかるが、自分の意にそぐわない人間、母親賛美のあまりそれとは合わない人間に対しこき下ろす文章。オカンの料理を食べなかったアルバイトの編集者をヤリマンと言うのとか、もう気持ちが悪いとしか言いようがない。とにかく批判ばかり。東京へは汚いところだ、東京ではだめになるとか言うようなことがまどろっこしい文章で書いてあるけれどお前それは東京関係なくないかと。アメリカ批判みたいなのに至ってはその文章まるごと削れと。各章の冒頭の、哲学っぽい部分も鼻につくだけで意味不明。
高校大学、卒業後も遊び呆けた放蕩息子がやがて年老いた母親に親孝行するという内容なら、息子がそんなにひとに批判的じゃ成り立たないと思うんだけども。それと正直、この両親自体息子を甘やかしすぎだろう。子どもにバイクや車を与える親というのに引いてしまうので、なんだかもう。
親が死ねば悲しいよ。それは大体のひとはそうだと思う。そういうわかりきったテーマだから、もっと昇華したものが読みたい。少なくとも私はこの本で、涙は出なかった。