「ドクトル・ジバゴ」

ドクトル・ジバゴ 特別版 [DVD]

ドクトル・ジバゴ 特別版 [DVD]

アラビアのロレンス」で気になったオマー・シャリフの出演作ということで鑑賞してみました。
ロシア革命という激動の時代を舞台に、壮大なスケールの中で、そこに翻弄されるひとびとを繊細に描くバランスがたいへんすばらしい作品でした。台詞で多くを語らず、物語の流れや表情から観客に汲み取らせてくれる。驚いたのがジバゴとラーラが出逢ってからそういった関係になるまでにかなり時間がかかるということ。運命的な出逢いから、一度目の再会と別れを経て、二度目の再会で抑えていたものが爆発してしまうというのが、背徳的な関係に陥ってしまうことへの説得力を与えてくれる気がしました。
ジバゴの人物描写もとてもとても丁寧で、例えば森の中で見上げる空や、窓についた雪の結晶や、春の野の花に向ける笑顔。こういった純真な詩人としての彼の魅力を描きながら、反面その夢見がちな性格ゆえの愚かさ。コマロフスキーとの対比も効果的でよかったと思います。
夫の愛人であるラーラに手紙を託したトーニャ、ジバゴとの間にできた娘にトーニャと名づけたラーラ。ふたりの女性が高潔で美しい。特にラーラは、ともすればとても愚かな女性になりかねない中で魅力的に描かれていました。でもやっぱり、私は本妻のトーニャに思い入れてしまいます。

「アラビアのロレンス」

あまりにも有名な超大作映画。最近なんとなく古い洋画を観たい気分だったので、ずっと気になっていたこのタイトルをチョイスしたものの、やっぱりこういうのを観るには自分には知識が足りなさ過ぎるなあということを痛感するだけに終わってしまいました。
前半まではロレンスがいわゆる英雄として描かれていて安心して観ていられるのですが、後半に進むにしたがって徐々に崩れていくのでしんどかったです。いちばん魅力的だったのはそのロレンスに最後まで連れ添い、政治を学ぶと言ったアリ。オマー・シャリフの立ち姿がたいへん美しかったです。

柴崎友香「主題歌」

主題歌

主題歌

ころころと変わっていく視点についていけず、短いお話の、とても平易な文章なはずなのに何度も挫折しかけました。これはもう相性の問題だと思うのだけど、このひとの文章のリズムに最後まで乗ることができなかったようです。
女の子を見て、かわいいと思う気持ちは、わかる。わかるのだけど、女が同性を見る目ってなにかもっと微妙なやりきれなさや無意識の引き算があって、そうしてしまうことへの自己嫌悪があって、というものだと思うのです。女は女を他人事のようにかわいいとだけ言えるのかな。男が男をかっこいいというよりもそれは難しい気がします。でもこの作品の実加も小田ちゃんもそういう内包する感情、醜ささえ伴う複雑さなんて一切なくて、するりとした手触り。主人公にそもそも悩みといったものが見当たらない、いわば『リア充』(彼氏がいて、仲間がいて、そこに諍いはなくて、仕事もそれなりに満たされていて)なので、非リア充の私にはどうも取っ掛かりがなかったのかもしれません。でも正直なんだかそれをわざわざ小説として読まされてもなあというのが拭いきれないままでした。

出戻り

じゅげむのブログを借りてみたものの、使い勝手の問題なのかいまいちなじまず、ほとんど書かない状況になってしまったので戻ってみることに。デザインはあちらのほうが圧倒的に豊富なので魅力的だったのだけど、ログインがなんとなく面倒でした。あと携帯で編集してみたら記事が消えるというアクシデントに見舞われたのも敗因。

2010年は、映画50本と本50冊を目標。
(去年は42本と32冊なので)

川島誠「夏のこどもたち」

夏のこどもたち

夏のこどもたち

熱くない青春は、もしかしたらリアルなのかもしれない。でもあまりにも熱がなさすぎる。これじゃ生きてるのか死んでるのかもわからない。どこか1点でいい、熱が欲しい。
主人公があまりにも冷めすぎ。何に対しても。家族にも、教師にも、そして同学年の生徒たちに対しても。友達ではない。主人公は周囲の人間を友達と思っていない。中途半端で自分では何もしないくせに、自己完結してしまっているので誰の影響も受けない。そんな彼の視点で語られているため、文章自体も鼻につく。全体に上から目線なのも不快。
最後に主人公がしようとすることも、近所に住んでる女教師をレイプするって…。しかもそれを‘馬鹿馬鹿しいとわかっていながら考える'というより、なんか厨二病みたいなノリなのがキツイ。それと放火犯を出すならもう少し前にちょっとでも伏線を張るべき。唐突過ぎる。
1番致命的に感じたのは題名に夏の、と銘打っておきながら、夏の空気を感じられないこと。湯本香樹実の『夏の庭』は読んでいると懐かしい夏の空気、匂いのようなものを感じるのだけど、この本にはさっぱりそれがない。舞台が夏なんだな程度。夏特有の鮮やかさもなければ倦怠感もない。

「20世紀少年 最終章ぼくらの旗」

結局最後まで原作は読まずに映画を観たのだけど、その上で最初に思ったのは『MONSTER』と似ているなあ、だった。作者が同じだから当たり前なんだけど、『MONSTER』でも描かれた、環境や時代といったものが人格形成に大きく影響する(つまりは人間を創り上げる)というのが。
登場人物のあまりの多さに途中で把握を放棄していたら、フクベエが出てきても誰だっけという状態。前作までを見返すべきだったかなあと思いつつも、全体に1回観ればお腹いっぱいな気分になってしまう。でもオチがわかった上で最初を見返せばもう少し理解できるかな。
ラストシーンたった10分のみの出演にもかかわらず神木隆之介君、よかったなあ。細く長い手足がいかにも所在なさげで、寂しげで孤独な少年にぴったりだった。

フレデリック・クレマン「アリスの不思議なお店」

アリスの不思議なお店

アリスの不思議なお店

日本でいうとクラフト・エヴィング商會の「どこかにいってしまったものたち」を髣髴とさせる。でもこちらのがやや耽美でちょっとグロテスクな印象。言語で読むともっと言葉遊びが面白いのだろうなあ。